春はいつまで寝てるのか

旅についての記憶を。

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ベルリンは笑う

広がるコンクリート。 けたたましく駆け込む電車の音。 垂直に歩けたってなかなか辿り着かないような高いビル。 それは日常であり異常な光景である。 この光景にもう一つ付け足せば東京ではないことが分かるだろうか。 すれ違う人たちはいくら仲がよくてもオ…

おはようプラハ

ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。 トムは昨日読みはじめた本を思い出した。それは、祖国であるチェコの代表的な作家、フランツカ…

ブダペストの夜警

ドアを開けた。そろそろ陽が落ちる。 仕事が始まる。 1週間分の食料も買い込んだし、久しぶりにセーチェニ温泉までいってきた。やはり日本人にとって温泉は力の源になる。 僕はブダペスト東側の地区に住んでいるので、歩いて橋を渡らなければならない。だか…

ウィーンでは女神が歌う

21歳。はじめての海外旅行。 その場所に選んだのはオーストリア、ウィーンだった。 一番懸念していた鉄の塊が空を飛ぶかどうかという問題はクリアされたみたいだ。気づいたら乗り継ぎのドイツに着いていた。 そこから飛行機を乗り換え1時間半ほど経つと目当…

ヴェネツィアはどんな都

水と、ともに生きてきた。 これはよくある比喩でもないし、人間の60%が水で出来ているという話でもない。私は日本人としては珍しく、海外で生まれた。それも、イタリア、ヴェネツィアで。 この事実は、日本に行った時には心を躍らせるし、イタリアに帰って…

フィレンツェの窓

いつも一人だった。 それは仕方なく一人なのではなくて、間違いなく自らの手で掴み取った一人なのだ。 日本人はいつも一人に対して恐れ慄いているから不便だ。 いつだって、自分の気持ちは一人で噛みしめるしかないというのに。 「あれ3限のテストの教室って…

ローマでひとり

僕は悩んでいた。 この店を手放すか否かについて。それは10年ぶりに街で見かけた同級生に声を掛けるか否かと同じ程度には難しいテーマであった。 「ボンジョルノ!いつものクロワッサンとカプチーノを頼むよ。」 「ボンジョルノ、昨日のローマは酷かったね!…

透明なモスクワ

待ち合わせをしていた。 待ち合わせというのは、大抵が目的地の近くの駅だったり、その日予約している店だったりする。ただその日は違っていた。 家を出てから既に半日ほどの時間が経っているのにも関わらず、時計の針は半分しか進んでいなかった。ツカヤは…