春はいつまで寝てるのか

旅についての記憶を。

パリから足をのばして

狭い部屋に置かれたMarshallのスピーカーからMaroon5のSundayMorningが流れた。

 

もう朝か。
授業がない朝は素晴らしいものだなあ。
さて、いつまで続くものか。
そろそろ仕事でも探さないとな。

 

フランスで生まれ育ち、一旦はフランス国内の大学を出てパリで仕事に就き、結婚して、自分が思い描いたパリジェンヌになれた。
そう思ったのは一瞬だった。
元々言い争いが多かった私たち夫婦は、なにもしなくても別れていたと思うけれど、結局は子供が欲しい夫と妊娠したくない私の意見の相違が二人に亀裂を生んだ。

 

勢いで実家に帰ってきてしまった私は、大学院に進学し、我がままにも両親が保有していたアパートに住まわせてもらうことになった。
お世辞にも広いとは言えない部屋だったけれど、1人と1匹が生活するには十分な広さだった。
そう、夫婦で買っていた小さなプードルをそのまま連れて帰ってきてしまったのだ。

 

仕事と夫を手放してからもう3年、大学院に1年通ったから学生を卒業してからももう1年以上経つ。
たまには実家にも顔を出しなさいという両親の言うことくらいは聞こうと思って、帰省を計画する。せっかく家を空けるならAirbnbで貸しちゃおうかしら。

 

すっかり荷造りを終えて、エレベーターがないこの家からスーツケースを下に降ろした頃にAirbnbでお客さんからメッセージが届く。
アジア人の男の子2人が待っていた。1人は英語が達者だったのでわりとスムーズにやり取りをすることができた。
だけど、あの部屋に2人なんてゲイカップルなのかな、なんて考えたりした。

 

何はともあれ、貸し出してしまった以上は何も言えないので、自分もバスに乗り込んだ。私の実家はモンサンミッシェルの近くにある。
パリから観光で来る人もいるけれど、決して同じ括りにする場所ではないのになあと思う。全然、車で何時間もかかるというのに。

 

仕事でパリに来た当初は、本当に色々なところを巡った。
親に連れられて行ったときに一応ルーブル美術館エッフェル塔凱旋門ノートルダム大聖堂あたりの有名どころは観に行ったけれど、あれ、ノートルダム大聖堂はこの間焼けちゃったんだっけ。それでもセーヌ川のほとりを1人で歩いた時には、自立したことをヒシヒシと感じた。

 

どんどん景色の中の建物は減り、海の匂いがしてきた。
孤高の修道院であるモンサンミッシェルも、最近はただの観光地化してきている。
確かに実家でもオムレツはよく出ていたし、美味しかったけれど、海を越えてまで食べたいものではないだろうと思ってしまう。
むしろ、幼いころは満ち引きが危ないから安易に近づくなと言われたものだが。

 

文句はいくらでも出てくるけれど、やっぱり平屋が多くて見晴らしのいい道が続く故郷が見えると安心してしまう。
パリはすごいところだ。ただ、それは人生の全てではない。
明日はノルマンディーのオマハビーチの方にでも行ってみようか。
なにかが見つかるかもしれない。それが仕事ならいいかも。