春はいつまで寝てるのか

旅についての記憶を。

あの子とブリュッセル、時々アントワープ

「しょんべん小僧は残念スポットなんかじゃない。」

EUの本部は絶対にここはじゃない。」

「私も巨人の手を投げられる人生がよかった。」

 

髪の毛を眉毛からだいぶ上で切りそろえた彼女は自信をもってそう言い放った。

卒業旅行に行ってから別れてしまった彼女の語録を時々思い出してしまう。

 

しょんべん小僧はやっぱり思ったよりだいぶ小さいもので街角にありすぎるし、EUの本部の近くにたくさん人がいて怖い思いもした。

アントワープにデイトリップをしたときは、巨人の手を投げている像があったけれど、あれはあくまでも伝説である。

 

本来であればドイツからパリに飛行機で飛ぶ予定だったのに、チョコレートとワッフルをベルギーで食べないと死ねないと駄々をこねた彼女に合わせる形でベルギーに訪れた。

 

「どう?本場のワッフルは?」

「まあ悪くない。それよりもあの象はなに?」

「しょんべん少女じゃない?」

「違う、ゾウ違い。あの赤い象。」

「あー、デリリウム。甘いビールだよ。」

「よし、行こう。着いてきたまえ。」

「結局酒かい。」

「君も飲みたい年頃じゃないのかい?」

「まあ20歳超えてるからね。」

「ベルギーでは16歳から飲酒が認められているんだよ。だからあんなに高校生に色気があるんだ。日本も飲酒年齢を引き下げないと世界と戦うことなんてできないよ。」

「いやいや、顔立ちとかでしょう。。」

 

無理のある持論を展開されて、ビアバーに入れられた。

ただ彼女のその雰囲気はヨーロッパでは気に入られることも多く、実際にブリュッセルのビアバーで彼女が頼んだビール瓶のフタは普段よりも2,3倍高く飛び、ビールを注ぐパフォーマンスもいささか派手なものになった気がした。

 

一応断っておくけれど、僕も僕で楽しみは見つけていた。

彼女に振り回されていただけじゃない。

ベルギーの建物は規則正しく並び、アントワープは特に銀座のような風格を持った街であった。アントワープ駅の美しさは日本の規格では語れないものがあった。

あれは機能としての駅ではなく、街の象徴としての駅であった。

 

それでも、別れた今思い出されてしまうのは散々飲まされたビールや彼女が頼みすぎたオイスター、そして少しのワッフルとチョコレートである。

ろくにお土産も買わなかった我々は、その後日本に帰ってすぐ別れてしまった。

その別れはよくあるもので、会社に入り住む場所が変わりお互いのすれ違いが多くなったということだった。

 

彼女は社会人になっても持論を展開できているのだろうか?

あの、僕をたくさん困らせて僕にため息をつかせて、そして最後には笑ってしまうあの持論を。